食べ物や飲み物で感じる苦味成分と味覚の構造について
コーヒーや紅茶などの「苦味」を感じるメカニズム
基本の5味に数えられる苦味は、いろいろな食べ物や飲み物に含まれていて日常的に感じる機会が多いですね。ほどよい苦味はその食べ物飲み物を美味しいと感じる大事な要素です。では、その苦味の成分と、口内で苦味をどのように感じているのでしょうか。
コーヒーや紅茶に含まれる苦味の成分
コーヒーの苦味成分は、コーヒーに含まれる2種類の成分によってもたらされます。
カフェイン:
カフェインはコーヒー豆に含まれる刺激性のアルカロイドです。これは中枢神経刺激作用を持ち、人々に目覚めや注意を引き起こす効果をもたらします。カフェインは苦味をもたらす一因です。
クロロゲン酸:
クロロゲン酸はコーヒー豆に含まれるポリフェノールの一種で、苦味をもたらす主要な成分です。特に焙煎が濃くなるほど、クロロゲン酸の量が増え、苦味が強くなります。
また、焙煎の程度、種類、抽出方法などにも影響されます。
一方、紅茶の苦味成分は主に4つです。
テアフラビン (Theaflavins):
テアフラビンは紅茶に特有の成分で、紅茶の発酵過程で、茶葉中のカテキン(抗酸化物質の一種)が酸化されて生成します。テアフラビンは、紅茶の色、風味、苦味に影響を与える重要な成分です。
カフェイン:
紅茶にも少量のカフェインが含まれています。カフェインは中枢神経刺激作用を持ち、気分を高揚させる効果があります。しかし、紅茶に含まれるカフェイン量はコーヒーよりも少ない傾向があります。
テアリン:
テアリンは紅茶に含まれるアミノ酸の一種で、カフェインと一緒に存在することが多いです。テアリンはリラックス効果を持ち、カフェインの刺激を緩和する働きがあります。
ポリフェノール:
紅茶には抗酸化作用を持つポリフェノールが豊富に含まれています。これらの化合物は苦味をもたらす要因の一つです。
その他の成分:
他にも紅茶には様々な成分が含まれており、これらが総合的に苦味に影響します。例えば、タンニン、カロテノイド、ビタミンなどがあります。
紅茶の苦味は、種類(緑茶、紅茶、ウーロン茶など)、茶葉の発酵度合い、抽出時間、温度などによっても異なる場合があります。それぞれの種類や製法によって、苦味の特徴が異なります。
苦味を感じるメカニズム
甘味・苦味・酸味・塩味・うま味の基本5味を感じ取る味覚センサーは、舌の表面にたくさんある舌乳頭という突起の中に含まれる味蕾が中心。味蕾はその他に口の奥から喉にかけても分布しています。喉を通るときにも味を感じているということです。喉ごしのうまさはこれに起因します。
一つの味蕾は100個以上の味細胞という、それぞれが基本5味のどれかひとつに対応した異なる細胞の集まりになっている。この味細胞の表面に味覚受容体というのがあらわれ、甘味やうま味に反応する受容体はそれぞれ1種類なのに、苦味の受容体はたくさんあります。
自然界には甘味やうま味物質より苦味を感じさせる物質が10倍くらい多いからでもあり、苦味物質の多くが毒をもつので、その危険から生命を守るためなのでしょう。
苦味の質感の要素
ところで、「苦味の質」は受容体の種類だけできまるわけではなく、「スッキリした苦味」とか「苦味が後に残る」といった質感がありますね。これは味を感じさせる物質が口の中にどれくらいの時間とどまるかという滞留時間、持続性も影響します。
ここで大事な仕事をしているのが「唾液」です。味覚における唾液の役割の中で、とくに重要なのが洗浄作用です。僕たちがものを食べるときに、分泌された唾液は味を感じ取る受容体から味物質を洗い流してリセットしてくれています。
また、渋味を感じるときに反応する唾液中のプロリンリッチタンパク質(PRP)も、渋味成分のタンニンや油脂分に率先して結合することで、口の中からそれらを排除するのを助けます。
唾液の働きの参考として、梅干しなどのすっぱいものを食べると大量につばが出ますが、これは口の中のpH(水素イオン濃度をあらわし、酸性かアルカリ性か)を一定に保つためです。もともと唾液腺でつくられる唾液の原液はpH7.5程度の弱アルカリ性ですが、ふだんは途中でナトリウムイオンが再吸収されて、口の中とおなじ弱酸性になって分泌されます。
とても酸っぱい梅干しを食べたときのように大量に分泌されると再吸収が間に合わないため、原液の時の弱アルカリのまま出ます。すると、酸味を強く感じたときほど、弱アルカリのままの唾液によって、ちょうどよく中和される、という実によくできた仕組みになっています。
このほか、固形物質中の味物質を溶かして味蕾に感知されやすくしたり、食品中のデンプンを唾液の中の酵素(アミラーゼ)で糖に変えたり、と唾液はさまざまなかたちで味覚に関係しています。
このようなメカニズムで人間は苦味を感じています。コーヒーや紅茶を飲む際にちょっと思い出していただければ幸いです。
参考、出典:コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか
旦部幸博著
講談社(2016/2/19)