緑茶の淹れ方

緑茶と紅茶、中国茶の違い 


 ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、私たちがふだんお茶とよんでいる緑茶と紅茶、そして烏龍茶はもともとは同じ木です。ツバキ科の一種で正式名をカメリア・シネンシスといいます。農家のおばさんが摘んできたお茶の葉は、緑色をしていますが、それを放っておくと、黄色くなり、やがて茶色になっていく。緑茶が烏龍茶になり、紅茶へと変わっていく過程です。

 何がおこったかというと、お茶の葉に含まれる酸化酵素というものが、空気中の酸素と結びついて酸化(よく発酵と言われますが、正確には酸化です)していくわけです。皮を剥いたりんごを、たべずにおくとだんだん色が変わって黒ずんでくるでしょう。あれといっしょです。

 完全に酸化したのが紅茶。途中で酸化をとめたのが烏龍茶、まったく酸化していないのが緑茶です。蒸気で蒸して酸化酵素の働きをとめるのが日本の緑茶のつくりかたなんですが、烏龍茶や紅茶に比べれば、傷みやすいし生にちかい。それだけ、より多く自然の恵みを残しているとも言えるでしょう。ガンにかかりにくいとか、動脈硬化をおさえるとか、虫歯予防とか、そのほかにも緑茶(お茶)にはさまざまな健康効果があるのもそのためだとおもいます。

 実際にお茶を入れてみます。3人分くらいがちょうどおいしく入りやすい(料理なんかもそうでしょうけど、1人前をおいしく淹れるのはむつかしいのです)。
まず最初にポットから茶碗に人数分の(3人分の)お湯を注ぎます。7分目くらいでいいです。こうすることには実は理由が3つあります。

お湯を冷ます。茶碗を温める。そしてお茶の量が量れる。この3つです。

緑茶の淹れ方

 どうしてお湯を冷ますんですか?おいしくなるからですよね。じゃあお湯を冷ますとなぜおいしくなるんでしょう?これはお茶の味成分の働きがお湯の温度で変わってくるから。お茶の味を決める代表的な3つの成分とは何でしょうか?わかりにくかったら、皆さんがお茶を飲んだときに、どんなことばでその味を説明しますか?しょっぱいとか辛いとか。苦い、渋い、甘い、うまいとかでしょうか。

 この苦味が珈琲なんかにたくさんはいっているカフェインです。渋味がこのごろテレビによく登場するカテキン(タンニンともいう)。甘味・うま味はアミノ酸です。この3つの成分はお湯の温度によって働き方が違う。渋味のカテキンと苦味のカフェインはお湯が熱いほどよく溶け出す。ですからお湯が熱いほど渋く苦くなる。それにたいして甘味・うまみ成分のアミノ酸は、お湯の温度にあまり関係なくお湯が熱くても、ぬるくても、水であってもおんなじように働きます。

 それで3つの成分がバランス良く働く温度。渋味・苦味・あまみがほどよく調った味になるのは、だいたい70℃から80℃といわれる。それでお湯を冷ますわけです。でもね、そんなこといったって、俺はやけどするくらい熱いお茶をふうふう言いながらのみたいとか、とにかく渋いお茶が好きだ、というかたもいらっしゃるでしょう。そういうひとは、熱湯でお茶を淹れたらいいと思う。お茶はあくまで嗜好品なのだから。ただ温度で味が変わってくることを知っていることは大切ですし、より多くの方はこのほうがおいしいと感じるはずです。

 次に急須にお茶の葉をいれます。あくまで目安ですが、1人前2g。だから3人なら6g。この茶さじですりきりくらい。そこへ湯呑みに入れてほどよく冷めたお湯を注ぎ、30秒くらい待つ。お茶の葉がお湯の中でゆるやかに開いていくのを待ちます。

 お茶の葉というのは、作る過程で蒸したあと、揉んで揉んで、乾燥させて、まるでぞうきんを絞ったようによられた状態になっています。それが開いていきながら、お茶の成分がお湯に溶け出していく。30秒と言ったけど、待ち時間はお茶の葉の細かさによって違う(これは紅茶なんかもいっしょ)。粉茶や深蒸し茶のように葉っぱが細かいと、成分が溶け出すのが速いので短い時間で。反対に玉露や紅茶のダージリンのように粉のない大きな葉(オレンジペコー)は、時間がかかります。

 では、急須から茶碗にお茶を注ぎます。3つの茶碗のお茶が同じ濃さになるように、少しずつ注いでいく。このやり方を回し注ぎといいます。この段階で色がまだ出ていないなあ、と思ったら待ち時間が短かったので、ゆっくりと注ぐ。反対に濃かったら、十分成分が出ているので、手早く注ぎます。急須の中では、こうしている間もお茶の成分がお湯に溶け出している、それでこんな具合に調節するのです。

 それと最後の一滴まで、よく注ぎきって下さい。この濃いところがおいしいですし、注ぎきることで二煎目(二回目)がおいしくなります。

 二煎目を淹れるときは、お湯が80℃くらいになっているポットならそのままでもいいんだけど、そうでなかったら、少し冷ましたい。でも茶碗はつかってしまっている。それで湯冷ましを使います。湯冷ましで冷ましたら急須にお湯を入れて、待たずに注ぐ(お茶の葉は、もうすでに開いているから)。三煎目は、ポットから直接でもいい。だんだんお茶の味が変わってきているでしょう。それはお茶の味成分が溶け出すスピードと関係があります。
 
 甘味のアミノ酸と苦味のカフェインはお湯に溶け出すスピードが速い。それに対して渋味のカテキンは、ゆっくりだらだらといつまでも出てきます。だから、甘味と苦味は(ちゃんと淹れれば)一煎目でほどんど出ちゃう。二煎目、三煎目は渋味のカテキンが中心なので、それほど冷まさなくてもいいわけです。

 ひとから聞いた話ですけど、豊臣秀吉が織田信長に気に入られたきっかけは、秀吉が信長に淹れてあげたお茶がおいしかったからだそうです。最初の一杯はぬるめで甘い。二杯目は少し熱くちょっと渋い。最後の一杯はとても熱くてとても渋い。秀吉がお茶の成分と温度の理屈をわかっていたのかどうかは知りませんけど、なんと気が利くやつじゃ、となったとか。

 ちなみに最近は渋味が敬遠され勝ちですが、お茶の場合、この渋味があるから飲んだ後清涼感、さわやかな感じになるのです。
 こんな具合に、ていねいにちゃんと淹れるとだいたい3回くらいで、いいところはでてしまう。その後のお茶を出がらしというんですね。だれだれさんちに言ったらまるで出がらしのようなお茶が出てきた、なんていわれるやつです。その茶殻にポン酢醤油をかけておひたしのようにして召し上がることもできます。

 お茶を淹れて、渋すぎたなあと思ったら、それはお湯が熱かったか、葉っぱが多すぎたか、待ち時間が長すぎたか。その3つのうちのどれかです。そのことをいつも意識しながら淹れていると、かならず上手に淹れられるようになります。料理もそうでしょうけど、お茶がおいしくいれられると、女の人の株があがると思いますよ。

 冷茶について。冷茶はアイスティー(紅茶)もアイス珈琲も淹れ方はいっしょです。濃いめにきちんとホットで淹れたお茶や珈琲を氷で一気に冷やす。お茶の場合、どうせ冷やされるのだからお湯を冷まさなくてもいいんじゃないかと思うかも知れませんが、そうすると苦味と渋味のつよい冷茶になってしまう。ホットの段階で味が決まってくるからです。最初から水で出す方法もあるけれど、これだと香りが出にくいという欠点があります。

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